脚本家

北川悦吏子さん

時間が許す限り、仕事から離れたくない……
脚本作りは、厳しくも甘美な仕事です。

「ラブストーリーの神様」とも呼ばれる脚本家の北川悦吏子さんが手がけたNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」は、
型破りな作風で大反響を呼んだ。心温まる物語に流れる、スリリングな展開に心を奪われた方も多いのではないだろうか。
ここでは、本編で触れられなかったドラマ作りへの思いを中心にご紹介しよう。

「ロミオとジュリエット」に憧れて。

― 幼いころは、どんなお子さんだったのですか

 私は岐阜県の出身なのですが、6歳年上の兄が岐阜の中心部の高校に通っていて、毎週のように映画を観てはパンフレットを持ち帰っていました。その中に「小さな恋のメロディ」や、「ロミオとジュリエット」があって、本編は観ていないのに、映画を勝手に想像していました。パンフレットを見ては「なんて素敵!」とか「こんな世界があるの!?」と感動して、いつかこの映画を実際に観てみたいなと憧れているような田舎の子どもでした。たぶん、それがラブストーリーとの出会いなのでしょうね。特に「ロミオとジュリエット」が好きで、ヒロインを演じたオリヴィア・ハッセーのポスターを買って部屋に飾っていました。

― それらの映画によって、脚本家の道に目覚めたのでしょうか

 いえいえ。当時は、母に言われて薬剤師になろうと思っていましたから。ウチは理系の家系なので、私も中学まで完全に理系だったのです。しかし、進学高校の理系クラスに入ったらまったくついて行けず、人生最初の挫折を味わいました。それでも、すぐに頭を切り換えて文系の大学に進みましたが、そのころはまだ脚本家という仕事を意識したことはありませんでした。現在の私に繋がる共通点をあえて探すのなら、小田和正さんの音楽バンド「オフコース」を聞いて、音楽をやりたいと思っていたことでしょうか。自分の曲を作りたかったのですが、こちらも見事に挫折しました。大学3年生のときに、「あ、これはダメだな。才能がない」と自覚して、就職したのです。ただ、少しでも音楽には携わりたかったので、テレビ番組の制作に関わったりしていました。そして、徐々に脚本の世界に近づいていったのです。

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考え続けたいと思ったことが何度もありました。

― ドラマ「半分、青い。」のヒロインは漫画家の秋風羽織に弟子入りしますが、北川さんの修行時代の経験も投影されていたのでしょうか

 秋風羽織も私も同じ物書きなので、秋風を演じた豊川悦司さんに今の私の思いを代弁させたようなところはありました。豊川さんとは付き合いが長く、私が何を考えているのか、秋風羽織とはどういう人物なのかと、何度も話し合いを重ね、豊川さんサイドからのアイデアも出てきたりして、あの秋風羽織像が、でき上がっていった感じです。「愛していると言ってくれ」からの信頼関係がありますから。豊川さんも、私の脚本であれば安心して演じられると思ってくださったのでしょうね。そうした雰囲気の中で、私の個人的な思いがセリフになっていった……そんな気がします。「リアルを拾うんだ」という秋風のセリフがありましたが、この言葉は、まさに私の思っていることでした。

― ドラマに描かれた漫画作りの現場はかなり厳しいものでしたが、脚本作りにも同様の厳しさがありますか

 そうです、かなりハードです。でも、自分で選んだ道なのですから、仕方ありませんね。朝9時から夕方5時まで働いて、時間になったからそこから離れるということができない仕事です。特に、私のようなフリーランスの脚本家は、働き方改革とは無縁です(笑)。でも逆に、朝ドラのように長いものを書いていると、仕事から離れなさいと言われることのほうが苦痛といいますか……、時間が許す限り考え続けたいと思ったことが何度もありました。

― 気分転換は、どのようになさっていますか

 少し体を動かしたくなると、トレーニングジムに行ったりします。長期戦だった朝ドラの後は、さすがにどこかに行きたいと思いましたが、本当は旅行があまり好きではなく、家でリラックスするタイプです。ただ、ホテルでの滞在は大好きで、いつも、こちらのホテルのようにバルコニーがあって景色のいい所を選ぶようにしています。そういえば、ここの大浴場で感動したことがあるんです。脱衣場にちゃんとハンガー架けがあるのですね!これまで、全国各地の温泉旅館やホテルを利用しましたが、ハンガー架けがあったのは初めてです。些細なことですが、こんな所まで目配りされているのってスゴイと思います。

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今回のインタビューでは、北川さんの軽妙な話術に導かれながら、
日ごろはなかなか見られないドラマ作りの一端を覗かせていただいた。
締めくくりにホテルへのお褒めの言葉を頂戴できたことで、スタッフも感激。心温まる取材となった。